闇の虚空のサイリウム
大飯郡おおい町名田庄、八ヶ峰。頂から令制国八ヶ国を一望できるというこの山に、キャンプに行った。その夜のことである。
「夏」が存在感を増してくる五月だったが、山の中だけに、特に夜は冷え込みが厳しかった。かといってテントに入っても寒さが大して和らぐことはないため、鬼ごっこをして走り回っていた。
走ることに疲れ体が温まってきたとき、私はおもむろに100円ショップで買ったサイリウムを机の上から手に取った。すっかり暗くなった空にかざした。光害のない山中、星は綺麗に見えた。
私はサイリウムを、虚空の虚に投げた。昼間の青空よりもう少し青いサイリウムを、この星空の仲間にしたいと思った。だが、どれだけ力を入れて、回転をかけて投げても、キャンプ場の芝生の端に生えていた木を少し超える高さにしか上がらなかった。
10回ほど投げて、流石に諦めた。テントの隣に焚き火が燃えていた。これで走らなくても暖を取れる、と思いながら、ゆらぐ炎に手をかざした。
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